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事故メモ2

病院へ行く前に、レッカー移動されたディーラーへよった。
顔なじみのスタッフに、治りそうか尋ねると難しい顔をされた。
車の外観は修復できても足回りの損傷が激しく、どこかで歪みは残るだろうとの事。
修復費用の見積もりは、まだ出ていないが100万は超えるだろうと
言われた。

「廃車」という言葉が頭をよぎった。

この車は、私が初めて乗った車だ。
自分でお金をためて、免許をとって、自分が欲しいと思った車を選んだ。
一目惚れして、車を買うならぜったいこの車だと思い続けた車だった。
大事に大事に乗って、大事に大事に手入れして、相棒のような存在。
何もかもが自分にぴったりだと思える車だった。
今年の4月でちょうど3年目をむかえるはずだった。

廃車になるかもしれない事は、本当にショックだった。
あまりにショックで、泣いてしまった。
相棒がかわいそうで仕方がなかった。

本当なら、あと5年は乗るつもりだった。

治してでも乗りたいという気持ちもある。
「この」車だからよかったんだ。
同じ型でも、臭いもブレーキの効き具合も、ハンドルの重さも、
車の癖も、違うんだから。
だけど、この車を無理矢理治しても、安全に乗れるのだろうか。
それに修理みつもりが保険内でなければ、時価よりも高額になれば
結局は全損として扱われてしまう。

どうすればいいんだろうか。



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事故めも1

その瞬間の数秒間は、確かにスローモーションに感じた。
助手席の窓から迫ってくる鈍く光る車のフロント部分が見えた瞬間
普通ではありえない光景に「え?うそ!なんで??」という言葉が出てたのだけは
しっかりと覚えていた。
「嫌だ!怖い!」それも思ったと思う。でも、声は出なかった。
次の瞬間、聞いたことのないような車が抉られる音。
「ああ。仕事いかなきゃいけないのに。どうしよう。」
死ぬかもしれないと思った瞬間に思ったのは、仕事の事だけだった。
衝撃で横にも縦にも揺れる振動。
「どうしよう。」「何で?」「嫌だ」とそればかりが頭の中をぐるぐるしながらも
何よりも車が傾く恐怖は半端じゃなく、ハンドルを握っているだけで精一杯。
その間は、とても長く長く感じた。
いつもは、あっという間に過ぎてしまい名残惜しいくらいの「1秒」が
死ぬかもしれないと、思った時には「とても長く感じる」のはどうしてだろう。
たった数秒の事でしかない出来事なのに、その瞬間の1秒は
今まで私が経験してきた1秒の何回分だろうかと思わずにはいられなかった。

ゆっくりと流れていくその「瞬間」、眼は開いていたと思うけど、何が見えていたのだろうか。
とにかく、斜めになる車に必死にしがみついてまわりがどういう状況にあるのか
自分自身がどうなっているのかさっぱり分らなかった。
「車が転ぶ」とか、「対向車はいないか?」とか、「ガードレールにつっこまないか」
とか、まるで思い浮かばなかった。
本当に「怖い」しかなかった。


ブレーキは踏んだかどうかすら、思い出せない。




車は縁石を乗り越えて大きくバウンドして止まった。
やっと、時間がいつものように流れ始めたと感じた瞬間。
ゆっくりと、車が通過していく小さな音が耳に戻ってきた。

体中が痛くて、やっとのことでハンドルから手を放し、
「は。」と息をついた。息をするのも痛いほど、体中の筋肉が強ばっていた。
口の中が、じゃりっとした。
歯を思いっきりくいしばってたせいで親知らずが少し欠けてしまってた。
目の前には小高い山と青空のいつもの見慣れた景色。
道路を確認すると、道の端にいるのはわかった。

カーステレオから小さな音でお気に入りの音楽が流れてくる。
しばらくぼんやりと、その音を聴いていた。
左の指先を延ばしてステレオを消音し、そのままの指でハザードランプスイッチをおした。
時間は、自宅をでてちょうど8分をすぎたところだった。

「ああ。生きている」と思った。
そして、息をするにも背中が痛いと思った。

エンジンを一度きると、もう車は何も反応しなくなった。

傷みをこらえて、なんとか助手席から車の外に出た。
ふわりとガソリンの臭いがただよっていた。
車の後ろには、ガソリンか何かが流れたような染みがあった。
初めて車に目をむけると、側面が酷く抉れてしまっていた。

とにかく職場と自宅に電話を。

感情が凍ったような感覚。
これは夢なんじゃないのかと思いながら電話した。


警察の事故処理が終る頃になって、初めて涙が流れて止まらなくなった。
この時になって、やっと「生きててよかった」と思った。
生きててよかった。生きててよかった。
それだけで、涙がこぼれて止まらなかった。
いちど、涙腺崩壊するといろんな思いがこみ上げて来た。

安堵と恐怖と悔しさといろいろな感情だった。


あと少し自分のスピードが遅ければ、
もしかしたら、自分が突っ込む形になってたかもしれないし
ちょっとの偶然で、この程度の怪我ですんだなら、不幸中の幸いだと思う。


今日に限って。
母が、亡き父の仏前にお茶と御飯とお供えして両手を合せたのだと
後で聞いた。
それを聞くと、守ってくれたのかなと思わずにはいられなかった。





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